ドラゴンズファン九年生

●野球に無縁→パートナーの影響でいつの間にかドラゴンズファンへ…東京からドラゴンズな日々を綴ります

ドラゴンズ#38 ~松井雅人から松葉になっていく時間~

延長12回裏5対6、1点を追うドラゴンズ。最終打者かもしれなかった彼はベンチで突っ伏している。多分、泣いていた。高木守道監督は代打・谷繁を告げたのだ。

初回からマスクを被るも最終回に二回のパスボール。序盤で3対3になった後、0を並べ続けた試合は、ついに阪神に3点を献上。が、リードを許した裏で2点を追加し1点差まで詰め寄る。自らのミスを取り返すサヨナラの一打が出せたなら。だがそのチャンスは無かった。谷繁の詰まった打球で試合は終わった。

この選手の行方を見届けなくては。そう思わされるシーンだった。

 

あれから7年。今シーズンのドラゴンズ投手陣の台所事情は厳しい。始まる前の「今年こそ」から落胆するまでは早かった。開幕ローテを担っていた梅津、山本、吉見らは次々離脱。昨シーズン連敗ストッパーだった柳まで7月に入りケガで二軍へ。登板予定だった柳に代わり出場選手登録された選手への期待は正直薄かった。けれど、終わってみればその日までに投げた誰よりも試合を作っていたのは彼だった。

 

ドラゴンズの背番号38、松葉貴大。そして2019年6月までの38は、松井雅人。

 

ようやく、松葉が背負う38に慣れてきた。

TV中継で背中が多く映るのはキャッチャーよりもピッチャーだ。マウンドに38を付けた背中がある少しの違和感。それもその筈、松葉は昨年ドラゴンズでの一軍登板は一度きり。9月に先発を務めるも3回もたずにマウンドを降りている。

 

ドラゴンズとオリックスのトレードが成立したのは、2019年6月30日のことだった。ドラゴンズは松井雅人捕手と松井佑介外野手。オリックスは松葉貴大投手と武田健吾外野手の二対二。加えて金銭でのモヤ外野手の三人がドラゴンズから移籍。突然のニュースに驚かないわけがない。出ていく選手に思い入れがあれば尚更だ。

 

思えば松井雅人はここ数年の暗黒時代をよく生き延びた。2009年ドラフト7位で入団し、谷繁の壁を目の当たりにしてきた。一軍二軍を行き来しながら、リードがワンパターンだ、打席では自動的にアウトだと言われながらそれでも何とかもがいてきた。ドラゴンズでのキャリアハイは2018年、森繁和監督の最終年。開幕スタメンを勝ち取りチーム捕手最多の92試合に出場している。その森監督は、就任時「自分はつなぎの監督」と話していた。良い形で次の人に渡せたら、と。松井雅人も正捕手不在に重なるこの暗黒時代をつないだ1人なのではないか。勿論、選手は自らつなぎ役は目指さないし、結果的にはただ正捕手を勝ち取れなかっただけだ。

けれど、残された記録は彼が必要だった証だ。2017年の交流戦では、後にオリックスで同僚となるマレーロの本塁踏み忘れを指摘してホームランを阻止したこともあった。岩瀬の1000登板、引退試合でも球を受けた。中でも2018年4月、柳の初完封を共に成し遂げたことは忘れない。これからの中日を支える柳なら再び完封する時はきっとある。そのエースをアシストしたことは誇りに思っていい筈だ。2019年、吉見が人生をかけているとまで言った金子弌大との交流戦がドラゴンズでの最後のスタメンだったっけ。

 

 片や松葉は2012年、ドラフト一位でオリックスに入団。2年目の2014年には21試合に登板し8勝を上げる。しかし、その後は負けの方が嵩み2018年からは登板機会が大きく減っていった。オリックスのみならず、ここ数年のトレードを振り返っても一位で入団しながら移籍していく選手は確かにいる。最後まで面倒をみるのも、新天地で活躍の場を促すのも一位としての才能を大事に思えばこそかもしれない。

 

トレードをやっと受け入れることが出来たのは、今シーズンの7月15日、松葉のドラゴンズでの初勝利の日。最近のドラゴンズには珍しい、接戦を逃げ切る試合。アウトを重ねるたび小さく手を叩き、ガッツポーズを作る。ホームランを打たれた瞬間に舌を出した悔しそうな顔さえも、一軍で躍動する喜びに満ちているようだった。6回でマウンドを降りた後もベンチから声援を送り続ける。試合は1-0で勝利。お立ち台では「自分は打たせて取るピッチャー。バックを信頼して投げることが出来た。次もしっかり投げたい。」そう話しているちょっと泥臭いような笑顔に(ああ、中日顔だな)と安堵した。そして言葉通り翌週もチームに勝ちをもたらした。

 

今、ドラゴンズのキャッチャー陣は激しい争いを繰り広げている。ルーキーにして開幕一軍の郡司や7月に支配下登録されたアリエル・マルティネスの活躍は想像以上だし、新戦力に刺激されるように木下拓哉も打撃が冴え始めた。誰かが新しく入るには、誰かは去らなければならない。

多分、松井雅人が出て行ったことは正解だったのだ。

 

松井雅人は移籍後の昨シーズン中、エース山岡と8試合でバッテリーを組み勝率一位のタイトルを支えた。山岡は今ケガで一軍を離れている。今シーズンの松井雅人は試合終盤での交代が多く、打席も少ない。打撃は相変わらずのようだがそれでも居場所を作っている。

松葉は2勝した後の2試合では負け投手となった。際どい判定の後打たれたホームランに、叩きつけそうになったグラブ。持ったまま振り下ろしただけの腕を戻し、息を吐く。勝った試合では見られなかった姿。

 

少しずつ二人ともトレードの答えを探している。

あの時ベンチに突っ伏していた松井雅人はもういない。ドラゴンズの背番号38=松葉になったのだ。

 

シーズンも中盤、ドラゴンズは胃が痛くなるような戦いがまだ続く(ところで松井雅人の胃炎は大丈夫だったのだろうか)。

今年は叶わなかった交流戦で来シーズン二人が相まみえることがあれば、きっと嬉しい。

 

 

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これがコラムの努力賞に入った直後に、松井雅人は移籍後初のホームラン、しかも逆転のスリーランを放ちました。

hochi.news

そして腰痛で一軍抹消にもなったという…

戻ってまた、活躍してくれる日を待ち望んでいます。