ドラゴンズファン12年生

●野球に無縁→パートナーの影響でいつの間にかドラゴンズファンへ…東京からドラゴンズな日々を綴ります

叫ぶ姿が教えてくれた ~中日ドラゴンズ ブライト健太を応援する理由~

代打で三振した彼をカメラが何度もアップで映し出す。ベンチのブライト健太の横顔だ。気持ちを込めるかのようにぐっと目を閉じる、見開いて叫ぶ。また投手がコールされる。送り出すように手すりから身を乗り出す、白い歯がむき出しになる。アクエリアスを一口飲み干す、叫ぶ、唾が飛ぶ。また叫ぶ。その姿が途切れそうな私の気持ちを奮わせる。

 

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――名古屋に焦がれている。東京で生まれ育ちドラゴンズを応援している。SNSやネットショップが充実している今なら、近いも遠いもそんなに関係ないのかもしれない。けど、本拠地が身近なのはやっぱり羨ましい。この辺には限定グッズを置く店はないし、選手の写真をじっくり眺めてつい歩みが止まってしまうドラゴンズロードもない。サイン色紙やボールが所狭しと並んでいる聖地のような料理店もない。でも、地元出身の選手ならいる。
2021年のドラフト一位、ブライト健太。今一番期待している選手だ。

ドラゴンズファンになって11年。小4の息子は野球を始めた。黄金期は知らない。なんでこんな時期からハマってしまったのだろう。毎年自問自答しながら、強い竜を見たくて追い続けている。

 

ブライト健太を特に応援したい2つの理由

ブライト健太を特に応援している理由の一つは、東京都出身だからだ。今のドラゴンズの支配下登録選手に、東京都出身は2人。ドラフト一位となると歴代初めてだ(過去62人のベスト3は、愛知11人、    静岡・大阪6人、千葉5人)。上武大学を経てドラゴンズ入りしたものの、高校は甲子園出場のない都立高校出身。「地元が好きだから」というのも進学の理由だと知った。近いエリアだったこともあり、さらに親近感が湧いた。

ここからドラ1なんて夢あるな。笑われるかもしれないけれど、そんな風にも思った。リビングには七夕の笹代わりの観葉植物がある。短冊には二年連続二回、プロ野球選手になれますように、としたためてある。

 

そして、もう一つ応援したくなる大きな理由がある。ブライト健太の叫ぶ姿だ。

 

代打で三振に倒れたあの日。隣に座っていたのは先発の柳だった。3-0で迎えた5回。初球をフルスイングし、ファールで食らいつくも結果は三振。開幕からベンチ入りして5試合目のプロ初打席。出番を終えた後もチームを鼓舞し続けた。試合は5-0で敗れた。
今シーズンも、試合を作った先発をなかなか援護出来ない。正直、見ていてしんどくなる。度重なる怪我、連敗、完封負け、借金、自力優勝消滅。聞き慣れたくはなかったが、またか……と変に凪いでいる心。そんな時、叫ぶブライトにまだ諦めんなよ、と言われた気がした。見届けなくちゃ。だって、こんな選手に活躍してほしいじゃないか。

 

ルーキーイヤーは一軍出場ゼロだった。だが、今年はフレッシュオールスターのメンバーにも選ばれている。昨年未出なのはコンディション不良で辞退したからだ。右肩痛に悩まされ二軍で過ごした一年。「けがが多いのはプロ失格。情けないし、悔しい」※1と語っていた。それが今年はどうだ。二軍スタートだったキャンプ。「二軍の方が元気なのは俺がいるから!」※2と、その頃から盛り上げ、練習試合では二戦連続ホームラン二本。今のドラゴンズに一番欲しいもので抜群にアピール。目標だった開幕一軍を勝ち取った。でも、プロ初ヒットまでは長かった。

 

声を出したからって勝つわけじゃない、けれど

「一番大きな声出てるのが次、代打なー!」監督の言葉に湧くベンチの子どもたち。応援のボリュームを一気に最大化させる。川沿いのグラウンドってどうしてこんなに何もないのだろう。学童野球チームの応援に行くと毎回思う。東京の東側、海に近い墨田川や荒川などの広い河川敷に連なる野球場。夏は日差しを遮るものがなく、冬は吹き曝しに凍える。足立区出身のブライト健太もこんなところで野球をしていたのかもしれない。


「4番と8番、交代で」監督が審判に伝える。「俺も出たかった!」と口々に騒ぐ子どもたち。グラウンドにいると、子どもの野球人気が落ちているなんて嘘みたいだ。試合は15対12という点取り合戦の末、負け。声を出したからって、必ず試合に出られるわけじゃないし、勝つわけでもない。ましてやプロならば。それでも。

 

ブライトに代打が回らなかった日。代打攻勢をかけるも二者連続三振、その次の打者も三振だなんて脱力するしかない場面。それでも口に手を添え、メガホンのようにして声を響かせる。手すりを両手で掴み、背中を反らし目を閉じ喉の奥まで見えるほど大きく口を開ける。戻って来た投手にグータッチをして拍手で迎え入れる。ああもう!と言いたげに顔をゆがめ拳を手すりに重く置く。まだ諦めるな。

 

ようやくの初ヒット、再び待たれる一軍でのスタメン

 

4/27、マツダスタジアムでの8回裏。7回を0点に抑えた柳の代打にブライトが送られた。初出場から10打席目、柳への代打は三度目。島内からの初球をフルスイング。振っていけるブライトの思いきりの良さが好きだ。カウント2-2から捉えた変化球は遂にレフト前に落ちる。ようやくの初ヒット。一塁につくと、キュッと口を結んで次の塁を見据える。感情むき出しの姿からは意外にも思えた表情。ベンチ前では、手を掲げる柳の笑顔があった。

 

プロ初ヒットから5日後、ブライトは二軍へ行った。チャンスはDHのある交流戦で巡ってきた。再昇格し、5/31に初のスタメンで初打点に猛打賞。翌日には満塁で走者一掃スリーベース。「パテレ行き」もした。それでも、交流戦後は再度二軍へ。
大島、岡林、細川の三人の外野争いに食い込むのは簡単じゃない。でも、諦めたくなりそうな時のベンチにブライト健太がいて欲しい。そして早く、一軍でホームランを放ってほしい。

 

その時も叫び続けてくれ。見てよ、ブライト健太を!と子どもたちに言うから。私もTVの前で、河川敷のグラウンドで応援し続ける。

 

フレッシュオールスターはもうすぐだ。

 

 

※1    中日スポーツ    https://www.chunichi.co.jp/article/585810
※2    スポーツ報知    https://hochi.news/articles/20230208-OHT1T51051.html?page=1
・出身地について    中日ドラゴンズ85年史: B・Bムック (B・B MOOK 1529)、報知新聞    1970年    11月14日
    プロ野球2023歳最強データ選手名鑑    双葉社

 

 

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もとい、来年のオールスターが楽しみだ。

というくらい活躍してくれることを祈って。

 

この文章を書いた後、フレッシュ辞退が決まったのは悲しかった…!

毎年恒例、文春野球フレッシュオールスターの投稿作品です。今年は「ガッツ賞」頂きました。ペナントレースの行方に乗り切れない自分の気持ちの中の希望を見つけ出して託しました。まさしく私自身が提出を諦めそうになりつつ、書きあげられたことに感無量。

録画を見返したり、縁の地やラーメン屋に足を運んだり。写真はブライトが中学生の時に所属していたチーム(シニアクラーク)のメイン練習場です。自分のスケジュール表を見返したら、そこに連なる別のグラウンドで試合してましたね。ニアミスにしみじみ。

川沿いの球場に近づいて、堤防を上って視界が開ける感じは気分爽快です(車が無いゆえ、電車移動しがち)。

 

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